長男くんの翼

2022年1月26日水曜日

生活

翼の翼

少し前に話題になっていた中受関係の本。
ハードカバーだし、文庫か古本かで、と思っていたけど、「新年だし」の謎理論で新品を買ってしまった。
珍しく夫婦で読もうとなって、妻の次に私が読んだ。

結果、わりと感動した。
いい意味でも悪い意味でも。

妻の感想

妻の感想は、「なんか大変そうで翼くんがかわいそうだった」というものだった。
…アナタはもう少し、表現力を鍛えた方がいいと思うの。
グダグダと話し続ける旦那さんよりは幾分マシかもしれないけど。
ネタバレは嫌だけど、もう少し、こう、読みたくなるような文句は言えないものですか?

彼女は中受経験者だけど、基本一人で取り組んでいたらしい。
母の母校という確固たる志望校があり、そこまで高難度ではなかったらしいので、あまり親も成績を重視していなかったとか。

なので、長男くんの成績も、テスト直後の発表時くらいは気にしているものの、基本褒めるだけ。
悪いときは触れない。

そんな感じなので、円佳さんに特別共感もなかったらしい。
視界が狭まっていくことについて、ただ哀れだったと語っていた。

へー、と思いながら読み始めた。

いい意味の感動

私も人の子の親。
最後の方の展開は良かったなーと思う。

他人事、というか小説の中の話だけど、どうなるかなどうなるのかなと思いながらページをめくった。

受験自体の結果というより、家族の絆が取り戻せたようでなにより。

主人公は母親で、感情移入は出来なかったし、するつもりもなかった。
なので、傍観者の視点で読んでいた。

最後の方のおそらくシリアスな場面で、家族の絆を取り戻そうと長々とした独白とかが、結局、「そんな気持ちで夫を見た」とあったりして、その察してちゃんはハードルたっけぇなとか思わず笑ってしまったけど。

あと、お話が2年おきで面白いな、って思った。
空白の間がどうなったかを徐々に知っていく構成。
特に、4年→6年のミッシングリンクは、これからの長男くんと同じところが欠けているから、ドキドキした。

…おや、いい意味での感動、少なくないですか?
まぁ、ネタバレになってしまいそうなところは書かないけど。

悪い意味の感動

私は父親なので、基本はお父さん視点。
なので、お父さんの描写のところは、読んでいて結構心が痛い感じだった。

最近はめっきりと減ったけど、「あぁーこういう教え方対応をしちゃったときもあったなぁー」と思うこともしばしば。
…教え、とは言わないな。

特に、4年前期の「□の逆算」は、ひどかった…。
基本的に、「子どもが分からないところを分からせられないのは、教える側=親のせい」とは思っているけど、5通りくらいの教え方を試して、十問近く簡単な例題の解き方を見せて、なお学び直し1と同レベルの問題ができないときは、NGワード「なんで分からないんだよ!」と言ってしまった。

今なら思うけど、どうせスパイラルするんだから、その回の復習がそこまで分からないのなら、別に1単元くらい諦めてしまったって良かったのにね。

作中に何度か見捨てるような発言も出てきたけど、しょうがなかったんだろうな、とも思う。
このお父さんも私と同じで、「勉強できなければ自分に価値なんてない」とか思っていたんじゃないだろうか。
でも、息子に教えてもイマイチ伝わらない、となれば、そんな現実を直視したくない。
そんな現実逃避からの言葉。

まぁ、そういう発言に至る思考が、理解はできるというだけの話だけど。

ふん、無様な。
教えていいのは、教える覚悟のあるヤツだけだ。
テメェのガキより先に諦めてんじゃねぇよって感じ。


お母さんについて

ママ友との付き合いとかは、ふーん、って流し気味。
作中にもあったけど、高度なマウントが上手なお人やなぁ。

あと、お母さん側でも親という点では共通だなぁ、と思うのは、子どもを追い込む発言の部分。
やさしく問いかけて、子どもに選ばせるような。
でも、ついつい、自分の望む方向に誘導するような言葉を使ってしまう。

そうした挙句の、言質を取ったような扱い。

私も、長男くんが本当に自分で選択すればいいやと思っていても、こういう問いかけになっちゃってるなぁと思うようなときは、ままある。
彼に好かれているという自負はあるし、汚い言い方だなぁと感じてはいるけど。

なんというか、そういうところで、冷めた自分がいると自覚しているところが印象的だった。
それでも、止められないようなところも。

感覚が違う

わりと全編で描かれる、成績で一喜一憂する姿が、イマイチ共感できなかった。

学生の頃から感じていたけど、多分私の方が、成績への向き合い方が人とズレている。

公立中学→公立高校と進んだ狭いコミュニティの中では、ずっとトップクラスではあったけど、もちろんずっとトップではなかった。

でも、トップを羨んだことは特にない。
彼らは彼らなりに、天賦の才能なり努力なりで、私よりいい点を取ったのだろうということで、でも自分は自分の出来ることはやっているしなぁ、と。

模試の成績表を見てもあまりピンと来ていなかった。
「ふーん、だから?」的な。
数字の意味も分かるし、それでどこが成績上の弱点とかも理解できるし対策もできるけど。
でも結局は、日々の勉強を続けるだけ。

日々、出来なかったことが出来るようになったこと、新しいことを覚えたこと、難しい問題が解けるようになったときの快感、そういったことにヤミツキだった。
立ち向かうべき相手は周りの人間ではなく、あくまで目の前の問題。
まぁ、そうすれば勝手に成績の方もトップクラスではあったから、というだけかもしれないけど。

長男くんに対しても、出てくる成績に比べれば、どちらかというとそういう日々の姿の方に夢中。
ずっと勉強を教えてきた私には見える、勉強への取り組みの進化、ちょっとした解法の理解、解けないんじゃないかと思っていた問題を解いたとき、そういった姿だけで満足。

でも、できれば本人にも見える形の成果にしてあげたいから、成績を上げられるように考えている最中ではあるけど。

そんな気持ちでいるので、円佳さんはテスト結果に気分を左右され過ぎじゃない?と思いながら読んでいた。
まぁ、日能研と違ってクラス分け頻度が高く、カリキュラムの差も大きい塾なら仕方ないのかもしれない。
あと、翼くんは、長男くんよりも大分成績もいいし。
そういう方が、「コンコルド効果」は大きいだろうな。

でも、もし仮に長男くんの成績が落ちていって、入塾時の偏差値40くらいまで、あるいはもっと下がったとしても、多分、私は落胆も何もしないんじゃないかなという気がする。

長男くんが取り組む意志を見せる限り、どこが悪いのかなとテストを通した問題分析を私は続けるだろうし、そのときに合った実施可能な勉強方法を考えて、教え続けると思う。

成績がどうであろうと、長男くんのそれまでの成長がなくなるわけじゃないのだし。

翼くん

自分が2,4,6年のときと比べて、正直あまり共感も同情もできなかった。
4年生まではともかく、6年生のときは、はっきり言って幼いとしか思えない。
ゴルフや成績が好きな父親や母親なんて、さっさと見切りをつければいいのに。

子どもだし、イラっとするほどではないにしても、行動原理もよくわからなかった。
泳ぎたいなら、地元の公立行って、水泳スクールにでも通えばいいんじゃ?
もう少し自分の人生に対して論理的に考えた方がいいと思う。

特に、5,6年くらいのシーン。
なぜ、あんな意味のないことを…。
人生なめてんな、って感じ。
どうせやるなら、試験中だとか、もっと意味があるようにやればいいのに。

で、意味のない自己採点のために暗記?
なんて無駄な…。前日にその労力を使えばいいじゃん。


話が飛ぶから幼かったころのイメージが残ったまま読んでしまうけど、このときもう12でしょ?
優しいはずの子が壊れていく、というのが中受の怖さ、ってことなのかもしれないけど。
こんなのにいじらしさを感じてくれるのは親だけだよ。

泣きわめけば誰かが面倒を見てくれるのかな?
いつまで幸せな赤ん坊気分なんだろう。
一人前に自分の意見を通したいというのなら、自分の決断と行動に責任を持ちなよ。

愛しの長男くん

6年生で何度か出てきた、撤退するかどうかの描写。

そんな内容で思うのは、長男くんが「中受をやめたい」と言い出したらどうしようか。
私は、どうするだろうか。

うーん、ウチの場合は、「XXXに行かせたい」とか「難関校に行かせたい」とかではなくて、「公立に行かせたくない」だからなぁ。
私が成績で嫌な思いをしたのと、長男くんも向いていなさそうという理由で。

だから、中受はやめてほしくないな、と思っているけど。

でも、どこぞの歌のような「僕が諦めてしまっても笑ってくれますか?」の答えは、Noだ。
言葉のアヤかもしれないけど、諦めはするなと思う。

元々塾に入ってもらいたかったのは、「思考力をつけて欲しかったから」。
公文での、決められたプリントで繰り返しの練習をひたすらやる、ということからは次の段階に進んで欲しかった。
その背景は、「自分の生き方を自分で決められるようになって欲しいから」。

だから、中受をやめるメリットやデメリットを理解した上で(そのための情報はあげるけど)、やめると自分で決めるなら、決められるなら、それでもいいかな、と思う。
作中にもあった通り、それは単なる選択。

中受だけが勉強で成功していく道というわけじゃないのは、なにより私が知っているし。
勉強だけが幸せになる道でもない。
大切だと思っているのは、幸せになろうと考えられる力と、自分を幸せにしようという問題解決力。

その上で、中受が障害だというなら、取り除くのにためらいはきっとない。
私が賛成さえすれば、「今週末の育テを待たずして終了」っていうのも可能なくらいに、簡単なことだしね。

まぁ、とりあえず今、長男くんは説明会に行けた中学に行きたいと思っているそうなので、やめたいとは言わないと思うけど。

さて、これから始まっていく5年生、その先の6年生ではどうなることやら。
せめて翼くんよりは、もう少し大人になっていて欲しい。