しゃべらない長男くん
パパ視点の日記、2月2日。
いよいよのチャレンジ校。
起床、出発
昨晩、発表のあった学校の合格通知をプリントアウトしておいて机の上に置いておいた。
私は少し朝の支度があったのもあって、その場には居合わせなかったのだけれど。
声が聞こえてくる。
どうやら、喜んでいるようだ。
おめでとう。これで、春から私立中学生は確定だね。
ちなみにこの合格通知書、早い学校は1日くらいしかプリントアウトの期間がない。
市川は、忘れてしまったというか、普段使っているブラウザだとエラーになってしまって、サーバ側の問題かと放置していたら期間を過ぎてしまった。
長男くんはなにやら喜んでダンスをしているけど、飛び跳ねたりし始めたところで止める。
1月、学校を休み家にいる時間が長くなったせいか体力が余っているせいか、家の中で飛んだり跳ねたりして、何度か着地ですべりそうになっている。
そのたびに「もしここで右手をねんざでもしたら、そこでお前の中学受験は終わりだからやめろ」と強めに言っているのに、何度言っても聞かない。
さ、一旦この結果は忘れて、今日の受験に全集中だぞ。
国語で読み直したいテーマの文章があると言っていただろう。
昨夜のうちに出しといたから読みな。
そんな具合に準備をして、いざ、出発。
さすがに本人も思うところがあるのだろう。
表情がすでに昨日より硬い。
しょうがない、くだらない話でもするか。
ねぇねぇ、学校行くまでの道で、今日はう〇ちの話と、ち〇ち〇の話と、科学の偉人たちの話と、どれがいい?
「…じゃあ、偉人達で」
相当ウザそうにされたけど、気にせず、ニュートン、レオナルドダヴィンチ、ウェゲナー、アインシュタインのあたりを話す。
あ、今朝はまだ体調面を気にしていなかった。
踊ってたから大丈夫だろうけど。
こちらから話しているだけだと、上の空で色々考えちゃうかもしれないし、質問形式に変えよう。
そういえば、今日はお腹痛くない?
「いや、お腹痛かったのはパパでしょ。大丈夫なの?今日は」
さぁ?
「さぁ、じゃないよ。ホントに具合が悪いなら仕方がないけど、昨日みたいに恥ずかしい話と一緒にするのは、反省して欲しい」
はん、せ…い…?
家の中で飛び跳ねるなと何度言っても分からない子から、そんなことを言われるとは思わなかったので、頭が言葉の理解を拒否する。
「反省だよ。しろよ」
フッ、あんなのはさ、パパにとっては、ピンチでも何でもないわけ。だから、反省すべきことなど、何一つないよ。全てが正義だ。
「ちょっとカッコイイけど、何バカなこと言ってんのさ。わりと最悪だったよ」
?
最悪って言うのは、ある程度の量が体外に排出されてしまった状態でしょ?
具体的に、何mlくらいさ?定量的な基準のない議論には、付き合えないねぇ。
「うるさいよ、バカ。大人なんだから、もうちょっと『最悪』の基準の方をどうにかしなよ」
お、多少クチが回るようにはなったな。いいぞ。
そんな話をしながら、目的駅で下車。
学校までテクテクと歩き出す。
昨日は暖かったのに、今日は随分寒いな。
これだけ寒ければ、隣から一声あってもよさそうなのに。
受験生の列、チャレンジ校の受験。
やっぱ緊張してきたか?
またピエロになっておくか。
うー、寒い。ヤバい、急に、ヤバくなってきやがった。
「なんだよ、もう。またお腹?」
いや、今日はお腹の方は平気なんだが。どちらかと言えば、前の方だな。
「気持ち悪くなっちゃったの?大丈夫?ちょっとゆっくり歩く?時間には余裕があるんでしょ?」
いや、前は前でも、上じゃなく下の方だ。
…前、と言っていたら察しがつきそうなものだけれど、もしかして自分が気持ち悪いのか?
「まーたシモい話かよ!ちょっといい加減にできない?」
…お、ちょっと元気そう。やっぱ緊張だけか?
そうは言ってもなぁ。こればっかりは致し方もない。改札出てから急にかな。冷えた。
「とりあえず、まだ我慢はできるでしょ?もう、そんなに学校まで遠くないし。今日は静かに歩いてね」
あぁ、そうだな。学校までの坂ももう半分ほどは来ている。
それに、昨日とは違って、ちょっとズボンが迷彩柄になる程度で済むだろう。
黙って染めていくことも不可能ではない。
「だから何で出ちゃう前提なんだよ!そうなる前にはひと声かけてよ、トイレ行こうよ」
…うん、問題なさそうだ。
分かった。もしそうなる前には、『私は○○の保護者です!発射!』って声をかけるよ。
「そうじゃなくて!」
そうしたら、仮に入学することになったらお前のアダ名は『お漏らしジュニア』だろうよ。
ぷぷぷ。
やーいやーい、お漏らしの息子ー、と彼が幼少期から数年来の定番文句で囃し立てる。
「それ、一番恥ずかしいのは、漏らしている本人でしょ」と冷静に突っ込まれるまでは使おうと決めている。
と、軽く小突かれた。
…うん、頭も回って会話も出来ているし、体も動いているようだし、コンディションは問題ないかな。
でも、学校に入ったところでちょっと雰囲気が変わる。
…仕方ないよな、少し気圧されるのも。
「じゃあ、行くね」と元気なさそうに言う長男くんに、最後のアドバイスと励まし。
あぁ、行ってこい。
しっかり、受験票を用意してな。
いいか、忘れるなよ?困ったら、呼吸、深呼吸だ。
昨日と同じように、コブシを合わせる。
でも、カッコつけた別れ方は私には似合わない。
「いつもの力を発揮できるように、周りに飲まれずに、頑張れ」と、心の中だけで念じて、いつものようなフザけた雰囲気で見送る。
息を整えて、ヒノカミ様になりきるんだ。
ヒノカミ神楽、円舞!!
…最後の方、こっち見てなかった気がするけど、まぁ、いいや。
ずっとずっと対策してきた、憧れの学校。
精一杯頑張って、出来れば楽しんでおいで。
受験中
さて、今日も満喫へ行くけれど、ちょっとやることがある。
昨日の午後校は夜発表だったし先に私が見たけれど、これからは本人が先に見たいらしい。
それはとてもいい心がけだと思う。
自分で頑張ってきた受験結果は、まず自分で受け止めるべきだ。
しかし、中学受験は少し事情が違う。
集中的な日程の中、結果次第で変わる可能性のある出願方針、モチベーションの維持・立て直し。
長男くんとは約束をしたものの、申し訳ないけれど、今日は後者の意味で先に見ておく必要がある。
受かっていた場合は、別にいい。
今日午後の予定は、明日に向けて、過去問から解き方の確認程度のままだ。
しかし、もしダメだったなら。
少し明日の対策を積み増す必要がある。
つまり、日能研に行ってもらいたい。
それに、正直に言って、もしダメな場合を私自身が想定できていない。
入試での答案はもとより、問題も問題用紙のメモすら見ていないのに、受かっているつもりでいる。
偏差値情報と本人の反応しか見ていないのに。
その状況で一緒に結果を確認して、ダメだったときに理性的な対応が出来るかは、7割くらいしか自信がない。
つまり、3割は、一緒にパニックになったり、挙句、長男くんを責めるようなことを言ってしまったりする可能性を否定できない。
だから、ごめん、先に見させて、と心の中で長男くんに断って、結果を確認する。
ちなみに入力・閲覧の履歴が残る可能性のある私の携帯からでなく、リンクもしていない満喫のPCから確認したので、長男くんにはバレないように配慮はした。
その結果は、合格。
…あぁ、良かった。無事に、順当に、合格していた。
喜びというより、安堵。
それが一番はじめの率直な感想だった。
やっぱり、事前に確認しておいて、良かったな。
一緒に確認して結果が残念だったときに、理性的な対応を取れる自信が、7割から2割まで減ったのを実感した。
そして、妻とも結果を連携。
向こうは向こうで確認しているはずの段取り。
受験が終わったら、おそらくまっすぐ帰ることになると告げる。
と、不安が消えたのか、急にトイレに行きたくなる。
?なんだ、昨日から。
大して食事も多く取っていないというのに。
あまり考えていなかったけど、私にも結構ストレスがかかっているのかもしれない。
受験後
試験が終了して、今日は退場してくるときに長男くんと目が合って合流。
スムーズに会えたな。
「あのねぇ、良い話と良い話があるんだけど、どっちから聞きたい!?」
…出会い頭に不吉、な。
良く出来たと思うのはいいけど、もう振り返らずに明日の受験に切り替えた方が、いいんじゃ…?
だから、無理やり話題を切り替えようとする。
おー!こっちも大分良い話があるぞ!
「良い話?あれ、そういえば昨日のB校の結果って…」
さっき待っているときにトイレに行ったらけっこう…
いい終わる前に長男くんから突っ込まれる。
「もうトイレはいいよ!で、どっちから聞きたい?」
話題は変わらないか。
でも悪あがき。
…じゃあ、悪い話から。
「どっちも良い話だって!」
…いや、確認していったら、良い話だと思っていたのが、悪い話になっちゃうかもしれないじゃん。
だって、ココの学校、国語と算数で会心、社会と理科で普通以上じゃないと、キツイんだよ?
でも、もう、しょうがないか。
…じゃあ、1つ目の良い話は?
「今日の出来ねぇ、国語会心、算数会心、社会会心、理科会心だった!!過去問やってきた中でも、一番出来たと思う!」
…え?
そんなに具体的に、よく出来た、の、か?
あ、やばい。
なんか、うれしい。
でも、それって、単に難易度が今年は下がっていたっていうだけなんじゃ?
えーと、その場合、長男くんにはプラスにはたらくのか?マイナスにはたらくのか?
いや、とにかく、早く反応しなくちゃ。
おー!それは大したもんだねー!良かったな!
…あぁ、この子はそんな手応えが本番で得られるところまでは到達できたんだな。
「試験時間中、全然分からなかった」「算数で分からなくて、もう終わったと思って残りの科目を受けた」というような悲しい事態になることだって、十分にありえた学校だったのに。
本当に、本当に、受験して、良かったな!!
「でしょー。ふふーん!」
…この態度は、本当に自分ではよく出来たと思っているんだな。
いつだったか、一度だけ、偏差値が70に到達したときの全モのようだ。
で、2つ目の良い話は?
「あ、まとめて言っちゃったから、それで終わりー」
あぁ、過去問の中でも一番出来が良かったっていうやつか。
15年分くらいの過去問をやった中で、か。
感触を全部覚えているかは疑わしくても、それくらい、自信があるのだろう。
…細かく思い出させると間違いでも見つかるかもしれないから、今日の話は切り上げるか。
そうかそうかー。
あ、それと、昨日受けた午前校、結果出てるはずだぞ。
もう見る?それとも、ちょっと歩いて、道を外れてから見る?
「うん、もう見ちゃう。携帯貸して」
あぁ、学校のページは開いておいたから、合格発表へのリンクを押して、ここに受験番号とパスワードを入れればいいみたいだな。
「パスワードって何?」
読み上げてあげると、「なんかエラーになっちゃったよ!?」と言う。
あ、じゃあ、別のやつだったかなぁと別のものを読み上げると、イマイチ上手く入力できないらしい。
たしかに、それ、パパが入力しやすいように設定しちゃっているからなぁ。
ボタンを押せば見れるというところまで進めて、改めてスマホを渡す。
一度深呼吸を入れてから、決心する長男くん。
映し出されたのは合格の画面のはずだ。
すぐに声を上げて喜びだす。
それに合わせて、知らなかったかのような態度で私も喜ぶ。
おめでとー!!!マジかー、やったなー!
「うん、良かった…!ずっと行きたいって思っていた学校だったし…!」
あぁ、そうだな…!
よくやった。大したもんだ!
…さて、日能研に電話するんだったか?
待っているだろうから、気持ちの区切りがついたら連絡してな。
「そうだね。じゃ、報告するよ」
今日の出来具合や、昨日の結果次第じゃ、日能研に行こうかと思ってたけど、この分だったら、行かなくてもいいか?
「うん。ちょっと疲れたし。それじゃ、帰ろ」
おー、じゃ、
あ!
やばい、ホントに結果の確認が長男くんからなら、はじめの連絡は日能研じゃなく、妻からじゃないか?
…ママにも…連絡、入れて、帰ろうか。
言葉は止めずに一応繋いだけど、マズイ、気づかれるか?
「そだねー、いやーでも良かったー」
…まぁ、長男くんには、無用の心配だったかな。
そんなことに気を配れるような状況じゃないだろうし。
帰宅後
帰宅して、妻へ長男くんが報告している。
B校に合格できたこと。
今日の学校の出来が、過去一番良かったこと。
妻も気取られないように対応している。
まぁ、今日の受験の方は初耳だろうし、半分は素直な反応だろう。
と、夕方になって、何か心配なことを長男くんが言う。
どうやら、膀胱炎?
まだ軽微なようだけれど。
ママがあっという間に決断して、薬を買いに行った。
膀胱炎って、私が昔受験でなったときは処方薬しかなかった気がしたんだけど、そんなこともないのかな。
女性の方がなりやすいって聞くから、妻の方が間違いはないだろう。
であれば、私の方が出来ることとして、本人を安心させておくか。
慣れない症状に不安がっているし。
そーいやオレも受験のときになった気がするなー。
ストレスってだけだよ。
薬を飲んだら、わりとすぐに治るさ。
まだ軽微っぽいし、パパも一発で治ったし。
それで安心した風の長男くんに対して、明日の過去問を振り返って、対策を告げる。
この学校、昨日の学校に比べれば難しいけど、時間さえ足りれば長男くんが間違える問題はあまりないと思うんだよなー。
でも、正月にやった過去問で3科目でメタメタになって合格最低点行かなかった。
そのことを、本人も気にしている。
なら、正月とはもうキミは違うでしょって方向で話しておくか。
この学校の問題との相性は、悪いというより、悪かった、だな。
この学校は全体的に時間が足りないように作ってある。
難易度はほどほど、と言ったところだ。
だから、いつまでも考えがちで問題を飛ばせなかったお前とは相性が最悪に悪かった。
でも、入試ってのは、解ける問題から解くゲームだ。
解けないところは取り組むよりも速く飛ばせた方がポイントが高い。
西大和で落ちたとき、栄東や市川で受かったとき、昨日今日でも分かったろ?
「うん。とにかく、合格したい」
そこの点をしっかり意識が持てているなら、問題ないだろうさ。
問題の取捨選択なんて出来るようになったろ。
今のキミならどこの学校に合格しようとも、もう奇跡でもなんでもない。
当たり前に出来ることだけやって、当たり前に合格してやろうぜ。
「わかった!じゃあ、寝るね!おやすみ!!」
そう言って、寝ていった。
今日は無事に就寝したみたいだけど。
一抹の不安があるとすると、若干、緊張感に欠けているな。
油断、というほどではないと思うけど。
今日がすごく良かったし、合格していれば今日の学校へ進学予定だから、多少そうなるのも無理はないか?
その後
「父の心、子知らず」と言った一日がまた終わった。
受験する直前には、あの、のほほんとした長男くんでさえ少しピリピリ気味。
それに膀胱炎っぽい症状にもなっていた。
かなりのストレスがかかっていたんだろう。
でも、彼は試験を受ける当人だからか、それなりに緊張感のある日々を楽しんでも過ごせていたと思う。
結局翌日には膀胱炎?だったのも、もうなんともなかったようだ。
それに、この日になって自覚してきたけれど、私にもけっこうストレスが溜まってきているようだった。
元々ショートスリーパーな気質で、お腹も下しやすいからそこはともかく。
注意力が、いつもより落ちている。
思考が、まとまらない。
その場その場での適切な行動をとれる自信が、ない。
そして、受験の中で、私にとって一番プラスの意味で印象的だったシーン。
ここまでの結果では、無事に1日AM校も合格し、計画していた中では最良のパターンを進んでいた長男くん。
その経過にももちろん飛び上がるほどうれしかった。
しかし、この日、校舎から出てきたときの反応に、ひどく感動した。
ずっと目指してきた学校に、勝負できるところまではいった。
「もしかしたら合格しているかもしれない」という希望を感じられるほどに。
そこまでの伴走はできた、息子はそこまで到達したのだ、と。
その合否は、長男くんサイドですでに書いたように、残念ではあったけれど。
元々、この学校を目指していたのには、親としては打算があった。
というのもこの学校は、偏差値と比べて、問題がかなり難しいと思っていた。
だから、この学校を目指していれば、たとえたどり着ける見込みが薄くても、他の学校への選択肢が広がるだろうと。
90点を取りたいときに、90点を目指すより、100点を目指して勉強した方がよい、というような。
他の学校を直接目指すより、この学校を目指した方が、結果他の学校へのある意味過剰な対策となってくれる。
であれば、結果叶わないとしても、目標にさせておく。
それでも、ずっと第一の対策校として勉強をさせ、そのための教材を探し、指導の仕方を考えているうちに、愛着は沸いてきてしまうもの。
これほどの難しい入試問題に対して合格できる長男くんを見たくなっていってしまった。
そんな学校の入試が終わって、うれしそうに出来を話してくれる長男くんが、とても、とても、誇らしかった。
そんな感慨にいつまでも浸っていたくて、早く寝なきゃいけないのは分かっていても、ずっと起きていたいほどに。
ただ、このときのこの感動が、受験後の今の私にとっては、一番苦い思い出になってしまっている。
でも、一昨日より昨日の方が、昨日より今日の方が、元の誇らしい気持ちが蘇ってきていると思う。
この、やり場のない気持ちは、最後には、どうなっていくのだろうか…。
2月3日の日記を書いていれば、消化できるのかもしれない。
0 件のコメント:
コメントを投稿